少し大げさかもだけど、自分の人生を変えてしまうような、そんな強い影響を受けた曲があるだろうか。

私は、ある。
私はその曲の影響を受けて海外を旅する事に憧れを抱いた。
今回はそんな話。

高校三年生の時、私は同級生5人で地元の大学の大学祭に足を運んだ。
目的はその大学のホールで行われたとあるバンドのライブ演奏だった。
バンド名は「叫ぶ詩人の会」。
変な名前のバンドだ。
自分も含めて5人全員が叫ぶ詩人の会の曲を全く聴いた事が無かった。
でも軽音楽部だった我々は、なんだか面白そうだからと気楽な感じで開演を待った。

ホールは、ステージがあって固定式の座席が並んでてっていう普通のコンサートホール。
私達はステージからほどよく離れたちょうどホールの真ん中ぐらいに座っていた。
客席はかなりまばらで多いとは言えなかった。
当時はビジュアル系バンドが人気を博していた時期だったのもあって、叫ぶ詩人の会という名前のバンドは世間的にあまり興味を持たれなかったとしてもおかしくない。

演奏はまずロック調の曲から始まった。
ボーカルの人は金髪で肩ぐらいまであるロン毛で、顔を紅潮させながら叫ぶように歌っていた。
叫ぶ詩人の会っていうバンド名の通り、叫ぶ様に歌うパンクロックの曲から、演奏に合わせて詩を朗読するように歌うポエトリーリーディング調の曲などもあった。

印象的で面白いと思ったのは、「始まりと終わりの物語」という曲。
まずボーカルの人が客席から3文字の名前の女性がいるかステージから声をかける。
手をあげてその女性の名前を歌に使っていいか確認したら演奏が始まる。
例えば女性の名前が「よしえ」だとしたら、曲の最初から何度も「よしえ」という名前を呼び続けるように歌う。
始まりは緊張しがちに「よしえさん・・・」。
途中から親しくなって「よしえちゃん!」。
いつしか夫婦になって「よしえ。」。
そして最後は・・・。
こうして、二人の男女の始まりから終わりまでの物語を名前の呼び方だけで表現する。
これが胸に響いた。

私達は段々と叫ぶ詩人の会のステージに引き込まれていった。

「抱きしめたい」もグッときた。
「あの丘を越えて」もすごい良かった。

でもやっぱり一番心の琴線に触れ、感動したのは「LOVE&PEACE」という曲だった。

「LOVE&PEACE」の歌詞とメロディと雰囲気に、ホールは不思議な空気に包まれていった。
どうやら感動したのは私だけじゃなく、観客全員が胸を打たれたようだった。
ライブ演奏が終わり、メンバーが挨拶をしてカーテンの向こうに姿を消しても、数少ない観客は大きな拍手と共にアンコールを叫んでいた。
するとメンバーがまたステージに現れ、ボーカルの人がマイクを握り、「お前らも旅に出ろよ」と一言いい残しまたステージを後にした。

「お前らも旅に出ろよ」

この一言はずっと耳に残った。
お前も旅に出て色んな経験をしてこいよ。
そう言われた気がした。

とは言っても当時まだ高校生だったから、そう簡単に旅などできるわけがない。
とりあえず私は後日CD屋で叫ぶ詩人の会のCDを探し、「始まりと終わりの物語」も「抱きしめたい」も「あの丘を越えて」も「LOVE&PEACE」も全部入ってる「花束」というアルバムを見つけすぐ購入。
MDにも録音し、高校まで自転車で30分の道のりをMDプレーヤーで「花束」を聴きながら登校したものだ。

「LOVE&PEACE」という曲は色んな事を教えてくれた。
日本で日常生活を送っている時には見えないこと。
世界ではいつも貧困や飢えに苦しんでいる子供たちがいること。
目に映る悲劇全部を救うには自分一人は無力なんだということ。

YouTubeで探してみたら、公式じゃあないけど、誰かがアップしてたので、聴いてみたい人はこちらから。

叫ぶ詩人の会のボーカルはドリアン助川という人で、劇団や放送作家やラジオパーソナリティなどをこなすマルチな才能を持った人だ。
けれど才能を持っていて努力をしていてもなぜか報われない人っているのかもしれない。
バンド自体は、メンバーの一人が覚醒剤所持で現行犯逮捕されるという事件をきっかけに解散してしまった。
ドリアン助川のバンド以外での活動で最も有名なのはラジオでの人生相談だ。
他にも、先生役のドリアン助川が授業型式で生徒に海外の重要なバンドやアーティストを紹介する「金髪先生」ってTV番組もあった。
文筆業もしていて、本もたくさん出している。
なかでも映画化された「あん」は有名。

ところで、先日、飲み仲間と飲みながら旅の話をしている時にふいにこの曲を思い出して流してみたら、二人して泣いてしまった。
何回も繰り返し聴いて、何回でも涙ぐんだ。
なぜなら、歌詞の情景が自分の旅の記憶と重なって鮮明にイメージできてしまうからだ。

高校生の時に聴いてた時は、まだ旅の実体験が無かったので、詩の内容を頭で理解はできても非現実的でイメージできなかった。
けど今は実際にいくつかの国を旅してきて、貧困にあえぐ人達を自分の目で見てきている。
腕の無い赤ん坊を抱えてボロ切れをまとったガリガリの老婆が食べるものを恵んで欲しいと哀願してくるのを体験している。
裕福な日本人から何か買ってもらおうとついてきた子供を大声で追っ払ってしまい、後で苦い後悔を感じた経験をしている。
そういった、自分の体験を経てこの「LOVE&PEACE」を聴くと、痛いほど胸に刺さる。
ドリアン助川が感じて詩に込めた気持ちに共感する。
貧しい子供たちを目の当たりにしても、救う事などできやしない。
何もできず、何事も無かったように、無力感を感じて、歩いて過ぎ去るしかない。
ただ願わくば、彼らが悪事に手を染める事なく平和でいてほしいと思う。

海外を旅して色んな事を見るってのは、楽しいばっかりのキレイごとだけじゃすまない。
ぶらぶら海外を旅できるって事は、とても幸福で、実は罪深い事なのだ。

ありがとうドリアン助川さん、あなたの一言がきっかけで旅して、色んな事を学んで、少しはマシな人間になれました。

という訳で、今回は「旅に出るきっかけになった良い音楽」、叫ぶ詩人の会でした。

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